大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)13018号 判決 1998年11月30日

東京都保谷市東伏見二丁目六番一〇号

原告

内河煕

東京都新宿区西新宿七丁目九番九号

原告

壁の穴フーズ株式会社

右代表者代表取締役

内河煕

原告ら訴訟代理人弁護士

寒河江孝允

武藤元

浅香寛

右補佐人弁理士

石川義雄

石井孝

大阪市住之江区浜口西三丁目一三番七号

被告

株式会社壁の穴

右代表者代表取締役

伏木政光

右訴訟代理人弁護士

丹羽一彦

右訴訟復代理人弁護士

田中克幸

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  請求

一  被告は、スパゲッティ、パスタ及びその包装について、別紙被告標章目録記載の標章を付し、又はこれを付したスパゲッティ、パスタを製造、販売、展示してはならない。

二  被告は、原告壁の穴フーズ株式会社に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告内河煕は、次の商標権を有している(以下「本件商標権」といい、その登録商標を「本件商標」という。)。

登録番号 第二七〇三九三六号

出願年月日 昭和五二年二月二一日

出願公告年月日 昭和五九年五月八日

登録年月日 平成七年二月二八日

商品の区分 第三二類(平成三年政令第二九九号による改正前の商標法施行令一条別表による区分)

指定商品 食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加工食料品(他の類に属するものを除く)

登録商標 別紙原告商標目録のとおり

2  原告壁の穴フーズ株式会社(以下「原告会社」という。)は、平成七年二月二八日、原告内河より本件商標権について専用使用権(以下「本件専用使用権」という。)の設定を受け、平成八年九月九日、本件専用使用権の設定登録を受けた。

3  被告は、平成一〇年四月一日から、スパゲッティ、パスタ及びその包装に、別紙被告標章目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付し、またこれを包装に付したスパゲッティ、パスタの製造、販売を行い、そのスパゲッティ、パスタを、譲渡若しくは引渡しのために展示している。

4(一)  被告標章は、本件商標と類似している。

(二)  スパゲッティ、パスタは、本件商標権の指定商品である加工食料品に属する。

5  被告が、前記3のとおり、本件商標権の指定商品であるスパゲッティ、パスタに、本件商標と類似する被告標章を使用することは、商標法三七条一号により、本件商標権及び本件専用使用権を侵害するものとみなされる。

6  被告が平成一〇年四月一日以降販売した被告標章を付したスパゲッティの売上総額は、二〇〇〇万円であり、その五パーセントに当たる一〇〇万円が、本件商標権の通常使用料相当額である。したがって、商標法三八条二項により、右一〇〇万円が、原告会社の被った損害の額とみなされる。

7  よって、原告らは、被告に対し、商標法三六条一項に基づき、スパゲッティ、パスタ及びその包装について、被告標章を付し、又はこれを付したスパゲッティ、パスタを製造、販売、展示することの差止めを求め、原告会社は、被告に対し、民法七〇九条、商標法三八条二項に基づき、損害賠償として金一〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成一〇年六月二〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、原告会社が本件専用使用権の設定登録を受けていることは認め、その余は不知。

3  同3の事実のうち、被告が、平成一〇年四月一日から、被告標章が表示された包装のスパゲッティを販売していることは認め、その余は否認する。

スパゲッティの包装に表示された被告標章は、被告の商号を普通に表示した販売者名を表す記述的な表示であり、商標的使用に当たらない。

4  同4(一)、(二)の事実は認める。

5  同5の主張は争う。

6  同6の事実は否認し、主張は争う。

7  同7の主張は争う。

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  同2の事実のうち、原告会社が本件専用使用権の設定登録を受けていることは当事者間に争いがない。

甲第一号証、第二号証及び弁論の全趣旨によると、原告会社は、平成七年二月二八日、原告内河から本件商標権について本件専用使用権の設定を受け、平成八年九月九日、本件専用使用権の設定登録がされたことが認められる。

三  請求原因3について判断する。

1(一)  商標の本質は、自己の営業に係る商品等を他人の営業に係る商品等と識別するための標識として機能することにあるというべきであるから、標章を商品等に付する行為が商標権の侵害に該当するというためには、右標章が、自他商品の識別機能を果たす態様で用いられていることが必要である。

(二)  そこで、被告による被告標章の使用態様について検討する。

甲第四号証及び弁論の全趣旨によると、被告が販売しているスパゲッティのパッケージには、「ブコ・ディ・ムーロ」という表示が三箇所、「BUCO dIMUrO」という表示が四箇所、いずれも「ブ」、「ム」、「B」、「M」の文字を赤色、その他の文字を緑色とし、周囲の文字等からは明確に区別された一まとまりの表示として大書されており、右「ブコ・ディ・ムーロ」及び「BUCO dIMUrO」という表示が、自他商品の識別機能を果たしていること、被告標章は、右パッケージに、「販売者:株式会社壁の穴」という同じ大きさの活字による一まとまりの表示の一部として記載されており、右「販売者:株式会社壁の穴」という表示は、食品について法令により定められた表示の一環として、品名、原材料名、内容量、賞味期限、保存方法、調理方法、原産国名とともに、矩形の枠の中に書かれているものであること、「販売者:株式会社壁の穴」という表示の下には、右表示より小さな文字で被告の住所が記載されていること、以上の各事実が認められる。

右認定事実によると、被告標章は、販売者名を表す「株式会社壁の穴」という被告の商号の一部として記載されているにすぎず、「被告標章が自他商品の識別機能を果たす態様で用いられているとは認められない。

甲第四号証によると、「販売者:株式会社壁の穴」という表示は、矩形の枠の中において、品名、原材料名等の他の表示の活字よりも大きな活字によって記載されていることが認められる。しかし、前記認定事実に照らすと、「販売者:株式会社壁の穴」という表示が他の表示の活字よりも大きな活字により記載されていることを考慮に入れても、被告標章は、自他商品の識別機能を果たす態様で用いられているとは認められない。

(三)  その他、被告が、スパゲッティ、パスタ及びその包装に、被告標章を自他商品の識別機能を果たす態様で付し、またこれを包装に右態様で付したスパゲッティ、パスタの製造、販売を行い、そのスパゲッティ、パスタを、譲渡若しくは引渡しのために展示している事実を認めるに足りる証拠はない。

2  なお、甲第五号証及び弁論の全趣旨によると、阪急百貨店有楽町支店地下一階食料品売場の被告の商品が陳列された場所に、「壁の穴」という表示の付された定価表が存することが認められる。しかし、右証拠によると、右定価表には、「Hankyu」という表示がされており、他の商品についても同様の定価表が付されていることが認められ、右定価表が置かれた状況等も考慮すると、右定価表は、被告が設置したものではなく、阪急百貨店が設置したものであると認められる。したがって、右定価表について、被告による右「壁の穴」の表示の使用は認められない。

四  よって、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

原告商標目録

<省略>

被告標章目録

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例